マダガスカルより愛をこめて
2023年、自生地一人旅

「いつかマダガスカルへ行きたい」と思いはじめて、たぶん5年くらい経っていた。きっかけは一冊の植物図鑑。乾いた赤土に立つバオバブと、岩の隙間から生える白い肌のパキポディウムの写真。あれを実物で見たい、という単純な欲求だった。

2023年の夏、ついに重い腰を上げた。航空券、ビザ、ガイド手配、現地通貨。準備にかけた時間より、決断するまでにかけた時間のほうが圧倒的に長かった。

首都アンタナナリボから、南へ

首都に着いた瞬間、空気が違った。標高1200mの高地特有の、乾いた風。市場には僕の知らない植物が普通に並んでいて、ここはもう園芸的に異世界だった。

そこから車で南下すること2日。イサロ国立公園を抜け、目的地のイファティ近郊へ。途中の景色は、ひたすら赤土と低木と空。標識もコンビニもなく、たまにすれ違うのはゼブと呼ばれる牛だけ。

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はじめての自生地

ガイドに連れられて入った乾燥林で、最初に出会ったのはパキポディウム・ロスラーツム。鉢植えで見るのとはまったく違う、岩のような重量感。ここで生きてきた、というたしかな存在感があった。

続いて、お目当てのグラキリス。岩の上に、ぽつんと、当然のように生えていた。鉢植えで見慣れた姿のはずなのに、自生地で見ると別の生き物に見える。背景の岩、空の青、足元の赤土。すべてが揃って、はじめてグラキリスだった。

持ち帰ったのは、写真と記憶

もちろん、自生地の植物を持ち帰ることはしない(ワシントン条約・国内法でも厳しく制限される)。持ち帰ったのは、数百枚の写真と、空気の記憶だけ。

でも、それで十分だった。日本に帰って、自分のグラキリスを見たとき、これまでとは違う気持ちで土と向き合えるようになった。この子は、あの景色から来たんだと。

また、行きたい

旅の最終日、空港でバオバブのシルエットを見ながら、また来ようと思った。次は乾季の終わりに、花の時期に合わせて。

植物を育てるという行為は、その植物の故郷を想像することと、たぶんほとんど同じだ。だからこれからも、自生地のことを考えながら、土を混ぜていく。

— END —